イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「そうだっけ?」
「お家元、まさか……」
なんてこと、この人私のうっかりミスを利用したんだ!
「藤沢につられたんだよ。俺は悪くない」
「嘘です! 絶対わざとですよね?」
詰め寄る私を見下ろすと、ふん! と偉そうな笑みを浮かべる。
「きっと氷見さんは、俺たちのこと怪しいって思っただろうね。まあそんなことくらいであっさり引くような人じゃないとは思うけど、少しはダメージ与えらえたんじゃないの」
なんと! まるで他人事だ。
「氷見さんのことはもういいからさ、早く藤沢のサンドイッチちょうだいよ」
「今はまだダメです。移動の車の中でお渡しします」
「ちぇっ、ケチ」
周りに人がいなくなった途端これだもの。素の智明さんを見せれば、氷見さんも夢から覚めるんじゃないのかな。
ちょっと待って。さんざん素の智明さんにいじられて、それでも彼に惹かれてる私っていったい……。
何とも言えない気持ちになって、私はやけくそ気味にエレベーターのボタンを押した。