イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 もちろん智明さんは部屋に入れてはいないと思う。

 最初は「忙しいから」と断っていた女性ファッション誌のエッセイの連載を急遽引き受けたのは、おそらく氷見さんからの誘いを断るためだ。

「仕事が残っているから」と断ると、さすがの氷見さんも大人しく引き下がってくれるらしい。

 その分忙しさが増した智明さんの体を、私はとても心配していた。


「すみません、何もできなくて」


 対談の時の『恋人関係匂わせ攻撃』も、結局はなんの威力もなかったということだ。

 そりゃそうか。天下のいけばな王子のお相手がこんな平凡な女の子で、しかもアシスタントだなんて、いくらなんでも信じられないよね。


「いや、藤沢のせいじゃないでしょ。そんな気にしないでいいよ」

「でも……」


 それに似たようなことが起きた映画の撮影中は、葛城さんが智明さんと同室になって、氷見さんの押しかけ攻撃を防いでいたらしい。

「次回の名古屋からは葛城も同行するし、前みたいに同じ部屋にしてもらうよ。葛城は、まあ嫌がると思うけど」

 力なく笑う智明さんを見て、情けなさが込み上げた。

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