イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 エレベーターに飛び乗り、打ち上げ会場になっている五階を目指す。

 扉が完全に開くのを待たず、私は外に飛び出した。


 日本料理やシーフードレストランの前を通り抜け、フロアの最奥にあるはずのチャイニーズレストランを探す。

「あ!」

 お店の入り口が見えて足を止める。レストランの入り口からちょうど智明さんが出て来たところだった。


「智明さ……」

 出した声は、尻すぼみになった。レストランを出ようとした智明さんを呼び止め、店の中から氷見さんが姿を現したのだ。


 店の入り口に他の出演者やスタッフさんたちの姿は見当たらない。おそらく会がお開きになったあとも、氷見さんが智明さんだけを引き留めていたんだろう。


 シーフードレストランの壁に隠れている私には、二人が何を話しているのかわからない。

 でも明らかに智明さんは困惑していて、早く部屋に帰りたがっている様子だった。

 どんなに智明さんが渋っても、氷見さんは智明さんを帰そうとしない。

 自分の誘いにいつまでたっても首を振らない智明さんに業を煮やしたのか、氷見さんが智明さんの腕に自分の腕を絡めた。

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