わたしと専務のナイショの話
 角を曲がり、広い道に出ると、それまで笑顔だった京平がいきなり、片手で、のぞみの頬をつかんできた。

「なんだ、お前、昨日の窓閉めたときの勝ち誇ったような顔はーっ」

 なんの話だーっ?

「俺は、あれから、何度も昨日の別れ際のことを思い出していたんだ」

 気が合いますね、私もですよ。

 あのときのことを京平も思い出していたと聞いて、ちょっと負けた感が薄らいでいたのだが、京平は、

「お前、俺が別れ際に、のぞみって呼べなかったあと、ふっと小莫迦にするように笑って、じゃあ、失礼しますーって、窓閉めたろーっ」
と叫び出す。

「小莫迦にするようには笑ってませんーっ」

 ちょっと可愛いなと思ってたんじゃないですかーっ、と心の中で絶叫する。

「しかも、あのあとのメールはなんだ。

『着きました?』はいいが。

『着きました? 専務』ってのは、なんだ。

 先生でなかったのは、まあいいが。

 普通、そこは、京平さんだろっ。

 俺がのぞみって呼んだんだからっ。

 今後は、釣り合いってものを考えて、京平さんって呼べよっ。

 俺だけがお前に夢中みたいじゃないかーっ」
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