彼の隣で乾杯を
「あら、それほどでもないわ。息子なんて薄情だから少しもうちに寄りつきもしないの。だから早希ちゃんに相手をしてもらったりしてただけ。
あなたの話も聞いてるわよ。早希ちゃんの仲のいいお友達なんですってね。あら、でもあなたこうして見てみると薔薇の花って感じじゃないわね。むしろ・・・」

「ここに居たのか、麻由子」

え?今なんて?薔薇の花じゃなくって?
高橋のお母さんの口から小さく漏れた言葉は男性の声に遮られてしまって私の耳には届かなかった。

わが社の久保山社長が林さんを伴ってこちらにやってきて高橋のお母さんの意識もそちらに向いた。

「あら、健斗。久しぶりね」

お互いをを呼び捨てにするこの二人。そういえばお母さんは副社長のことも「康ちゃん」と呼んでいた。

会長一家の幼なじみというから昔から家同士お付き合いがあり、会長やタヌキの幼なじみというよりも近所に住む年の離れた妹のような女の子だったのだろう。
会長よりもその息子の社長の方が年齢が近い。

二人は親し気に話しはじめた。

社長と高橋のお母さんは年齢が近いこともあって横に並ぶと美男美女カップルって感じ。
もしかしたら年齢が離れている高橋社長よりも久保山社長の方が高橋のお母さんとお似合いに見えるかもしれない。

そのうち他のスーツ姿の男性たちもわらわらと集まってきてあっという間に久保山社長と高橋のお母さんの姿は人垣で見えなくなってしまった。

ふと気づくとどこに行ったのかタヌキもいない。
早希の姿を確認すると、副社長と共に和服の女性を連れた年配の男性に挨拶しているところで、その近くにタヌキの姿は見えないからもう逃げたのかも。

いいのか、タヌキ。
きちんと早希に姿を見せたのか?
後で怒られても知らないぞ。
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