彼の隣で乾杯を

「もしかしてーー佐本さん、かな?」
名前を呼ばれて振り返ると、背が高く肩幅も広いけれどふんわりとした雰囲気の少しふくよかな50代半ば程の男性が立っていた。

この方は。
こくっと小さく息を飲んで姿勢を正した。

「高橋社長。はじめてお目にかかります。アクロス海外事業部の佐本由衣子です」

緊張のせいかうまく笑顔が作れずお辞儀もぎこちなくなってしまう。

「ああ、そういう堅苦しいのいいから気にしないで。貴女のことは谷口さんや良樹から聞いてるから初対面の気がしないし。名刺もいらないよ。
佐本さん、良樹の父親です。よろしくね」

「はい。よろしくお願いいたします」
高橋社長はふんわりとした笑顔で右手を差し出してくれて、私たちは握手を交わした。

ビジネスではなくて高橋良樹の父親として挨拶してもらったことに喜びを感じてしまうけれど、恋人のお父さんだと思うと更に緊張。
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