彼の隣で乾杯を
「ずいぶん優秀な営業成績らしいね。健斗社長ご自慢の「アクロスの薔薇の花」だって聞いているよ。でも、君は薔薇と言うよりも---」

「おじ様!」

薔薇と言うよりも・・・の続きは聞く事ができなかった。
今度は甲高い女性の声が割り込んできたからだ。

「やぁ、妃佐ちゃん」

妃佐ちゃんと呼ばれたのは高橋と一緒に空港で出会ったあの女性だった。

次から次へと・・・これもある種の千客万来?

「こんばんは。おじさま、ずっと探していたんですよ」

自信たっぷりな瞳と堂々とした態度。

「あちらにうちの両親も経団連の方といます。皆さんおじさまのことを待ってらっしゃるわ。特にうちの母に会うのは久しぶりですよね?」

彼女の細い腕が高橋社長の腕に絡みつき、綺麗に巻かれた髪とローズ色の上品なドレスの裾がフワッと揺れる。

「ああ、そういえば、そうだね」
「さあ、おじ様も早くいらして」

見た目にもかなり強引に高橋社長の腕を引いていく。
ホントにわかりやすく私のことをまるっと無視だな、この女。

「由衣子さん、またゆっくり食事でもしながら話をしよう。連絡するから時間を作ってくれるかな。良樹の都合が合わなければあいつは無しでいいから」

高橋社長は自分の腕にぶら下がる妃佐さんから私に向き直り、私に思いがけない誘いの言葉を告げる。

「は、はい。ぜひ」驚いて目を丸くしてしまった。私のことを名前呼びしたのはわざとだろう。

「おじさまったら早く」

彼女はこれまた見事なほど私をスルーをして高橋社長の腕を引き、自分の両親のいる方へと連れて行こうと歩き出す。
高橋社長は苦笑しながらも妃佐さんの勢いに押されるように「じゃあ、また」と去って行った。

二人の後ろ姿を目で追うと彼女がちらりと振り返り、一瞬私に鋭い目を向けた。
どうやら彼女に私の姿は見えてはいたらしい。
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