彼の隣で乾杯を
大きくため息をついていると「お疲れ様」とシャンパングラスを2つ持った林さんが近付いてきて私にグラスの一つを差し出してくれる。
林さんと私の関係は早希が戻ってきたことで何もなかったように、いや友人のような近付いた関係になっていた。
「ずいぶん彼女に敵対視されているね」
彼女に視線を向けたサイボーグの林さんの眉間には珍しくしわが寄っている。
「あら、見られてしまいました?」困ったように軽く微笑んでグラスを受け取った。
「わがままなヒトだから気にしないことだね」
林さんの彼女を見る目に優しさはなく、あまりいい印象を持ってないことがよくわかる。
「・・・あの、林さんは彼女のことよくご存知なんです?」
「え?」林さんは驚いた顔をした。
「佐本さん、まさか彼女のこと知らない?誰だか知らない相手に敵対視されてたってこと?」
「はあ、まあ、そんなとこですね」
曖昧な笑顔を作った。
「実は初対面ではないんですけど。初対面の時もあんな感じで私は透明人間にされました。その時一緒にいた高橋に彼女を紹介する必要がないって言われて。私から見て彼女はどう対処したらいいのかわからない存在なんですよね」
「紹介する必要がないか・・・ふーん」
林さんは会場のステージ近くで高橋社長を含めた数人の年配男女と和やかに会話する彼女の姿に冷めた微笑みを送った。
「彼女はここのご令嬢」
あらまぁ。
キネックス社の社長の娘!
お嬢さまってことか。