彼の隣で乾杯を
本当だ。うどんは冷めきっている。

「寝不足でボーっとしてました」ごまかしてのびたうどんをすすり始めた。

小林主任はそのまま私の隣の空いている席に座り、パチッと割り箸を割った。

「部長が昼休憩が終わったら部長室に来て欲しいって」

背後にいる総務課の女子グループがこちらの様子を窺っている気がするのは気のせいじゃないだろう。
たった今まで会話に出ていた最後のイケメン独身のうちの一人が来たんだから。

耳を澄ましてこちらの会話を聞いているだろうからやたらなことは言えない。

「私何かヘマをしましたか?」

何かやらかした記憶はないけれど、不測の事態ってこともある。

「いや、俺のところにそんな報告は入ってないし、部長の呼び出しもお叱りってわけではないと思うぞ」

「では、なんでしょう」

私の問いに主任は即答せず、ほんの一瞬だけ視線を背後に動かすような仕草をした。

ああ、主任は後ろの総務課女子たちに気が付いていたんだ。
彼女たちの耳には入れたくない内容ってことなのかと納得する。

「部長室には休憩後でいいんですね?」
「ああ、きちんと休憩を取ってから行ってこい」

お叱りでも急ぎの用事でもないらしい。「わかりました」と返事をすると、主任は当たり障りのない仕事の話をしはじめ、私も無難な返事をした。

のびたうどんをすすり終わる頃にちょうど東くんと八木さんが揃ってやってきたので、タイミングよく私は席を立ち上がり小林主任を残して総務課女子たちの聞き耳から解放されたのだった。
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