彼の隣で乾杯を

身支度を整えて部長室に内線で今から伺う旨の連絡を入れるとなぜか部長のサポートをしているスタッフから秘書室に転送された。

「佐本さん、営業部長は今タヌ・・っと神田常務のお部屋で打ち合わせ中なの。あなたも休憩が終わったらそちらに行って欲しいのだけど」
旧知のベテラン秘書室のお姉さまもうっかりタヌキと言いそうになっていた。

「神田常務のお部屋ということは常務室ですよね」

「そう、”タヌキのねぐら”よ。今日秘書の谷口さんはお休みを取ってるから行く前に常務室への事前連絡の必要はないわ。そのままお部屋に入って大丈夫。そこで営業部長とタヌキが待ってるから」

いや、もうお姉さまははっきりとタヌキって言ってるし。

「はい、わかりました」

「ああ、それとーーー」
お姉さまから常務室に入る前の諸注意を受けて私は常務室に向かった。

いつも早希がタヌキが抜け出さないように見張っているための部屋である執務室の前室には今日は”ポチ”と呼ばれる秘書室の新人社員の工藤君が一人でいるらしい。タヌキの見張りを任されているのだとか。

工藤君は豆柴みたいなキュートな顔をしていて、性格まで柴犬みたいで飼い主(ここでは早希)に絶対服従というわんこ系ドM男子。

「お疲れ様です。海事の佐本です。こちらに来るようにと営業部長からの指示で参りました」

私の顔を見て工藤君の硬かった表情が一気に柔らかくなる。
どうやら私は彼から自分の飼い主の友人だと認識されているらしい。

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