彼の隣で乾杯を
「佐本さん、先日のキネックスのパーティーお疲れ様でしたね」
にこやかに労いの言葉をかけてくれるタヌキと対照的に渋い表情の部長。

やはり何か粗相をしたんだろうかと戸惑いどう返事をするのが正解なんだろうかととっさに考えていると
「佐本さんは何もミスなどしてませんよ」
と穏やかな表情でタヌキが言った。

じゃあなぜ、と隣に座る部長の顔をそっと振り返るが、やはり部長は渋い顔をしている。
私の疑問に答えたのはやはりタヌキだった。

「佐本さん、キネックス社の次男坊、ご存知ですか?」

「はい。先日のパーティーでご挨拶させていただきました」

ご存知って程ではない、ちょっと挨拶しただけ。
次男坊は例の早希に横恋慕したというキネックスの営業部長をしているイヤな目つきをしていたオトコだ。

「その時彼と何か特別な話をしたりは?」

「いえ。挨拶はしましたが」
何か会話をしなかったことが失礼だったんだろうか。自分が担当ではないといえわが社の取引先だし。

「ですから、あなたのミスではないと」
タヌキは私の考えを読んだように苦笑する。

「実は早希さんと同じ状況になってしまいましてね」半笑いでタヌキが話し始めた。

ん?
「早希と同じとは?」

「ええ、先日、キネックスのご令嬢がいらして。あの次男坊がよりにもよって今度はあなたとお付き合いがしたいと言っているからぜひお見合いをと言ってきたんですよ」

んん?
今、何と?

「で、部長がこんな顔にね」
タヌキは自分の目の前で般若のような顔をして座っている部長に視線を送って面白そうに笑った。
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