彼の隣で乾杯を
「神田さん!あ、いや、神田常務。笑い事ではありません!よりにもよってうちの佐本ですよ。あの野郎」

部長が取引先の御曹司をあの野郎とか言ってるし。
ええーっと
「で、私はどのようにしたら?」

「佐本さん、あなたはあの次男坊とお付き合いしたい?」
「いえ、全く」

「断っていいんだよね」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」

「うん、わかった」
タヌキは笑顔を崩さないけれど、部長は渋い顔のままだ。

そこにポチがコーヒーを持って現れた。
「あー、僕のだけコーヒーじゃない。酷い」
目の前に置かれたコーヒーを見てタヌキが不満を漏らす。

コーヒーじゃないの?全部同じに見えるんですけど。
カップは三つとも同じだし、そこに注がれている液体の色も同じに見える。

「ねえねえ、コレちょっと嗅いで見てごらんよ」

不思議そうな顔をしていたらタヌキが私にカップを差し出してきた。

顔を近づけると、くんくんとする前にわかった。

「玄米の香りですね」

「そうなんだよー。妻が健康のためにこっちにして欲しいって早希ちゃんに渡したもんだから毎日飲まされちゃってぇ」

「一日5杯も6杯もコーヒーを飲んでるんですから1杯くらいこちらに変えてもいいでしょうと、奥さまも谷口さんもおっしゃってましたので」ポチは冷静に言い返す。

「美味しくないんですか?」

「まずくはないよ。でも、玄米をわざわざコーヒーに寄せることないのにね。そう思わない?玄米コーヒーってそれって玄米茶じゃなくて何でコーヒーっぽくしてあるの。見た目がコーヒーなんだからコーヒーだと思って飲むとコーヒーじゃないから身体が拒絶しちゃうんだ」

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