彼の隣で乾杯を
「じゃあ湯飲みに入れたら・・」

「やりました。ですが、湯呑で出したら常務はこんなどす黒いの玄米茶じゃないと言い出されまして・・・」
はあ、そうですか。
どのみち嫌なんですね。それはもうやめてと奥さまに頼むしかないんじゃないでしょうかね。
顔に出さないように心の中で呆れる。

隣の部長を見ると、明らかにこの話はどうでもいいって顔をしている。

「話を戻してください、常務」
部長にぶっきらぼうに言われて「ああごめんね」とタヌキが素直に謝る。
部長に怒られる大企業の常務ってどうなんだろうという気がしないでもない。

常務は玄米コーヒーを見つめているし、部長のしかめっ面はますます酷くなっている。

「とにかくしつこいことで有名なんだ、あの次男坊は。佐本さん、キミ恋人とかいるんだっけ?アンドレテ社のエディージオ氏とはどういう関係?彼に恋人役でも頼んでみたらどうかな。さすがにアンドレテ社相手ならあの次男坊も諦めるだろう」

「いや、無理ではないでしょうか。あの男は早希さんの時にうちの副社長が相手でも”結婚するまではチャンスがある”とか言った人ですよ」
早希の騒動を知っているポチが口を挟んだ。

「佐本さんが誰かと結婚するまで迫り続けるってことか?営業担当も佐本さんがいいとか、佐本さんを担当にするなら新規案件をうちと契約したいとか言い出して面倒なことこの上ないな。おまけにキネックスの社長と妹のご令嬢もこの話に賛成してるっていうじゃないか」

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