彼の隣で乾杯を
”令嬢”の言葉に私の眉がピクリと反応する。

そりゃあ”ご令嬢”は私と高橋を引き離したいのだからこの話に乗り気になるのかもしれないけど、私は彼女の義姉になどなりたくはない。

「なに考えているんでしょうかね、あの会社は」
ポチも怒りをにじませる。

「社員も無能な上司の下では大変だなと同情はするが、佐本さんを差し出せなんてこんなバカな話に付き合うつもりはない。いったいどうしてくれようか」

部長は怒り心頭といった様子でこぶしを握っている。

しかし、部長とポチが真剣に話してる横でタヌキは玄米コーヒーを睨んでいるのだけれど。

「私が直接お断りするってことでは?」

今までも何回か交際を申し込まれたり、上司を通じてお見合いの申し込みがされたりということがあり、その度にお断りしていたから今回もできるはず。

「ダメだろうね。しつこいんだ。アイツらにはもっと決定的なものを突きつけないと」
部長は渋い顔を一層渋くした。

「そのくらいじゃ諦めないから副社長も次男坊の目の前で婚約発表したんだし。他の会社でもあの次男坊に泣かされた女性が何人もいるんだよ」

考えたくないけど、泣かされたって何だろうと部長を窺うように見つめると、部長は嫌々というように口を開いた。
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