もう一度、愛してくれないか
「確か、専務の奥さまって、会長の娘さんでしたよね?」
豊川は、込み上げてくる笑いを堪えながら尋ねてきた。
「そうだ」
おれは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
会長の猛反対を押し切りまくってやっとの思いで結婚した、そんな立場のおれが妻に隠れて浮気なんかできるわけないだろう。
そんなことがバレでもしたら、即刻離婚させられて、会社もお払い箱だ。
会長は、今でもかわいい娘が孫を連れて出戻ってくるのを、手ぐすね引いて待っているところがある。表面上は、おれに激似の大地に対する会長の風当たりは強く、一見もう一人の孫の慶人を依怙贔屓しているように見えるが、さにあらず。
朝比奈一族全体の中でも、次代を担うプレッシャーに抗えるタフさを一番持っているのは大地だ、と考えているのが透けて見える。
「参勤交代」はそんな会長の「策略」の一つだ。
オンナ受けのよいおれに魔がさすように、との会長の切実なる願いだ。
若かりし頃、追い払っても追い払っても、オンナは向こうから寄って来た。
それに、おれも男だ。
どうしても紗香の肌が恋しくなったときがあった。ジムで一心不乱に汗を流してもダメだった。
そんなときは、赴任地から高速をぶっ飛ばして、家に着くなり紗香を抱いて、またすぐにトンボ帰りした。
だから、赴任地には必ず車が置いてあるのだ。
(品川ナンバーから変えざるを得なくなったのはここ大阪が初めてだが)
「……奥さま、会長には似てはりませんねぇ」
豊川がおれのスマホの紗香の笑顔を見て、しみじみ言った。
スリートップは、それぞれの「組員」への「手打ち」のメール送信で忙しそうだ。
「あぁ、ありがたいことに母親似だ」