向日葵
「アンタだって、あたしのこと軽蔑してんでしょ?!
馬鹿な女だとか思ってんでしょ?!」


『…夏希?』


「…もう、嫌なのっ…」


唇を噛み締めたはずなのに、言葉ばかりがせき止めることも出来ずに込み上げて来て、また涙が溢れた。


弱いのも苦しいのも、誰にも見せたくなんてないはずなのに。


なのに、こんなにも綺麗な海の前では、何ひとつ隠すことも出来なくて。



「…助けてっ…最後だし、もうアンタにも迷惑なんて掛けないからっ…」


どこに居ても、何をしていても結局は、クロのことばかり考えてしまう。


彼女が居たとしても、もうあたしのことなんて何とも思ってないのだとしても、それでも会いたくて堪らないのだ。


声を殺すことも出来なくなったあたしに、“わかった”と、そう耳元から小さく聞こえた。



『どこの海?
わかんなきゃ、駅名とかでも良いから。』


「…来て、くれるの…?」


『嫌なのかよ。』


「…いや、何か驚いて…」


何だか涙が引いてしまったのだが、そんなあたしに、“お前が言ったんじゃん”と彼は、そんな台詞。


この前とは、随分態度が違うのは、一体何故だろうかと、そんなことを思ってしまうのだが。


辛うじて思い出した駅名だけを告げると、彼は“そこで待ってろ”と、そんな言葉と共に、電話を切った。


通話終了の音を耳から離してみても、未だ現実を理解しがたくて。


宵闇はすっかり薄墨の色へと変わり、目の前には、空と繋がる黒が広がっていた。


少し前までは、あれほど心弾む色をしていた海も、陽が沈んでしまえば、その漆黒に小さな不安が顔を出し始めて。


落ち着こうとして吐息を吐き出してみれば、それは幾分震えて消えた。



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