向日葵
「俺、恋愛する時間なんてないんだけど。」


「そんなに忙しいの?」


「そう、過労死しちゃいそうなほど。
俺、仕事が恋人とか言って年取る典型になりそう。」


「ハゲなきゃ良いね。」


「うるせぇよ。」


いつも智也が来て、他愛もない会話を繰り返しているからこそあたしは、テレビの必要性を感じないんだけど。


クロの香りなんてこの部屋にはどこにもなくて、本当にもう、あたし達は終わってしまったと言うことだろう。



「お前それより、大丈夫?」


「何のことについての心配?」


「色々、だけど。」


「お父さんのことなら、全然平気だよ。」


「…そっか…」


あたしがこの部屋に引っ越して来てすぐ、お父さんが一度も意識を取り戻すことなく亡くなったのだと、香世ちゃんから連絡を貰った。


正直、こうなることも心のどこかで感じていたのだろう、普通に受け止めることが出来た自分が居た。


お葬式に行く勇気はなかったけど、でも、先日真新しいお父さんのお墓参りに、智也と香世ちゃんで行ったばかり。


梅雨の真っただ中で、雨があたしの代わりに泣いているようだと思ったことを覚えている。


そうやってお父さんのことを過去にしてしまえば、何だかお母さんのこともどうでも良くなってきて、今はそんなことを思い出すことも減ったのだ。



「あたしには、本当のママみたいな香世ちゃん居るし。
それにクロが、生まれてきたからには、自分の生きる意味は自分で探すべきだ、って言ってたし。」


「それ、見つかったの?」


残念ながらまだ、そんなものを見つけるまでには至らなくて、小さく首を横に振ることのみ。


そんなあたしに彼は、何も言わずに肩をすくめた顔を返してくれた。



「つか、梶原のこと聞きたい?」


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