向日葵
突然、何を言い出しているのだろうと、そう思った。


どこから仕入れたのか、智也はこういった情報を持っていて、そしてあの後、梶原が病院に運ばれたことまでは聞いていた。


あの時、クロのことを事件にされていないことに安堵したのだけれど、でも今更、他に何かあると言うのだろうか。



「アイツ、婦女暴行でパクられたんだ。」


「……え?」


「アイツの所為で苦しんだの、お前だけじゃなかったんだよ。
もしかしたら、まだ余罪があるかも、って。」


言っていることの意味があまり理解出来ず、ひどく混乱してしまうのだけれど。


智也の瞳は強くあたしを見据え、それが嘘ではないことを表していて。



「もう、夏希は苦しまなくても良いんだ。
アイツの罪は、全部警察が暴いてくれるから。」


瞬間、ただ涙が溢れた。


もう枯れ果てたんだとばかり思っていたはずなのに、なのに視界は徐々にぼやけ始めて。


警察なんか行ったって何もならないと思っていたし、ずっとアイツの影に怯えて暮らすのだと思っていたのに。



「…ずっと、怖かったっ…」


「抱き締めて欲しいなら言えよ。
いつでも準備オッケーって感じだし。」


泣き出したあたしに彼は、フッと口元を緩めて煙草を消すだけ。


きっと智也にすがればいつでも受け止めてくれるんだろうけど、でも、それじゃあたしはいつまで経ってもひとり立ち出来ないと思ったから。


首を横に振れば、“残念だな”と彼は、そんな台詞。



「前に進めよ、夏希。」


どこに向かえば良いのか、それを教えてくれるほど智也は優しくはなかったけど、それでもそんな一言が背中を押してくれた気がした。


梅雨が明け、夏を迎える陽射しが差し込み、まるで希望の一筋のようだと思える。


コクリとだけ頷きあたしは、涙を拭った。


< 224 / 259 >

この作品をシェア

pagetop