向日葵
7月も半ばを迎えると、いよいよ夏の到来と言った感じだった。


午前中のファミレスは大学生ばかりで、きっと旅行の計画でも立てているような、そんな声も聞こえたり。


ドリンクバーだけを注文し、カルピスの乳白色をストローでかき混ぜながら外を眺めていると、窓越しに手を振ってきたのは、あたしが呼び出した相手。


彼女は急ぎ店の中へとやってきて、そして“遅くなってごめんね!”と、そう少し息を切らしてあたしの向かいへと腰を降ろした。



「忙しいのにごめんね、香世ちゃん。」


「良いのよ、今日は夜勤だから。」


白衣を脱いだ彼女は年より幾分若い格好で、近くに居た店員にあたしと同じようにドリンクバーだけを注文した。


慌ただしい香世ちゃんを見つめながらあたしは、思わず口元を緩めてしまうのだれど。



「それより、新しい暮らしには慣れた?」


「うん、香世ちゃんのおかげ。
香世ちゃんが保証人になってくれなかったら、あの部屋も借りられなかったし。」


「良いのよ、あんなの。
書類に記入するだけだし、何より本当の子供同然に、なっちゃんのこと信じてるもの。」


クロの家を出るのだと、そう香世ちゃんに電話したとき、彼女はまるで自分のことのように泣いてくれた。


それを思い出すと心苦しいけど、でも、智也と同じようにあたし達が出した結論に、彼女が何か言うことはなかった。


その上アパートの保証人にまでなってくれ、香世ちゃんには感謝し尽くせない。



「私ね、なっちゃん。」


そう、香世ちゃんは少し迷った風に言葉を紡いだ。


どうしたのだろうかと、そう思って首を傾けてみれば、一度落とした視線は、少しの間を置いて持ち上げられて。



「ずっと言えなかったけど、本当は龍司さんから電話貰ってたの。」


「…えっ…」


「夏希のこと、よろしくお願いします、って。
俺も、あなたみたいな母親が欲しかったです、って言ってたわ。」


本当に、どこまで優しい人なのだろう。


今更そんなことを聞かされたってどうすることも出来ないし、また思い出してしまうじゃない。


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