向日葵
「私ね、本当にそれで良いのか、って聞いたんだけど。
そしたら龍司さん、何も言わなかったのよ。」


「…そう、なんだ…」


「きっと彼も、色んな事に迷って葛藤してるんだと思うわ。
本当は、なっちゃんと一緒に居たいはずなのに。」


そんなの、あたしだって一緒だよ。


だけどそう思ってしまえば、あの日の選択が間違いだったと後悔してしまいそうで、あたしは視線だけをグラスへと落とした。



「ねぇ、なっちゃん。
カウンセリング、受けてみる気ない?」


「…カウンセリング?」


「そう。
うちの病院、結構それで有名でね?
それに科は違うけど私も居るし、一度受診してみるのも悪くないんじゃないかと思うの。」


「…そんな、大袈裟な…」


何より、あんな過去を人に喋りたくなんかないし、知られたくもない。


戸惑うように煙草を持ち上げ、少し震える手でそれを咥えあたしは、呼吸を落ち着けた。



「何かを変えるのは、とても重要なことよ?
それに、なっちゃんの先の長い未来のために、いらない荷物は捨てるべきよ。」


「―――ッ!」


「それが終わったら、うちに泊まれば良いじゃない。
そろそろ、あの街に戻ることも考えてみて?」


香世ちゃんの言葉が、優しくあたしに溶けていく。


正直、すぐに答えは出せないけど、でも、それで強くなれるのかなと、そんなことを思ってしまう。



「…時間、ちょうだい。」


「そうね、しっかり考えて。」


クスリと笑った彼女は、自らのアイスティーに唇を濡らした。


旅行の話に花を咲かせていた大学生たちはいつの間にかいなくなり、静かすぎるファミレスに、小さな沈黙の帳が下りる。


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