向日葵
「智也がさ、寂しがってたよ。」


「…智也が?」


「そう。
かーちゃんは、息子の俺より夏希が大事なんだから、嫌になるよ、って。」


そう言ったあたしに彼女は、“あら、マザコンに育てちゃったかしらね”と、そう口元を緩めた。



「父親が居ないし、仕事柄、智也に寂しい思いをさせてたのも事実だけど。
それでも親バカかもしれないけど、立派に育ってくれたと思ってるから、だから心配しないことに決めてるの。」


「…そんなもんなの?」


「息子なんてそんなものよ。
いつか家庭を背負っていくんだから、少しは厳しくしないとね。」


「そっか。」


智也が結婚することなんて想像出来ないけど、でも、きっと素敵な家庭になる気がして、少しだけ羨ましく思ってしまったり。


だからそれまでに、あたしは智也に心配掛けないで生きられるようにならなきゃいけないのだろう。


その頃あたしの隣には、一体誰が居るのかなって、不意にそんなことが頭をよぎり、何となく寂しくなった。


きっと、香世ちゃんがクロの名前なんか出すのが悪いんだ。



「ねぇ、香世ちゃん。」


「え?」


「クロのことも、息子にしてあげてよ。
あたしと同じくらい弱いあの人のこと、助けてあげて欲しい。」


あたしじゃ苦しめることしか出来なかったけど、香世ちゃんなら、あたしとは別の形でクロを支えることが出来ると思ったから。


一瞬、驚いたように瞳を丸くした彼女は、次の瞬間には口元を緩め、“もちろんよ”と、そう笑顔を向けてくれた。



「あら、もうすぐお昼ね。
ついでだし、ご飯も食べちゃいましょうよ。」


そう言ってメニュー表を手渡してくれた香世ちゃんは、やっぱり本当のお母さんみたいだった。


何だかテレビドラマの中で観る理想通りって感じで、少しばかり照れ臭くなってしまうのだけれど。


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