騎士団長のお気に召すまま
突然のことに驚くアメリアは咄嗟の対応がとれず、後ろによろけてしまう。そしてそのまましりもちをつくように倒れこんでしまった。

立ち上がろうと地面に手をつくけれど、土が湿っていることに気付いた。


「休憩は、おしまいにしましょう?

先に会場でお待ちしておりますわ」


シアンにも向けていた猫なで声でそんな言葉を吐き捨てると、いまだに倒れこんだままのアメリアを一瞥して踵を返した。

一人取り残されたアメリアはなんとか立ち上がる。

怪我はないものの、せっかくシアンが用意してくれたドレスは泥まみれになってしまった。これではとても会場に戻れない。


「やられたな…」


強気な態度で接しすぎたのかもしれない、と少し反省していると、クス、と誰かが笑う声が聞こえてきた。

慌ててそちらに顔を向けると、月明かりに照らされた赤い薔薇の庭園から高貴な男性が出てきた。


「すまない、少し面白くて、つい」


彼は口元に手を当てて笑いを噛み殺しているらしかった。

アメリアは途端に恥ずかしくなって、「すみません」と謝るのだけど、その声がどこかで聞いたことがあるものだと気づいて顔をあげる。

月の光を浴びた彼を見たアメリアは目を見開いた。

まるで星空を流し込んだような濃紺の髪も、切れ長の青い瞳も、薄い唇も、シアンとよく似ている。

その端正な顔立ちだけではない。発せられた声も、よく似ている、否、同じだ。

けれど決してシアンではない。

彼は、きっと。



「アクレイド伯爵…?」


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