騎士団長のお気に召すまま
「ありがとうございました、ドレスを貸してくださって」


伯爵が用意してくれていたのは、ドレスだけではなかったとメイドが教えてくれた。

ドレスに合わせた靴や装飾品などの小物に至るまで用意してくれていたのだ。


頭を下げるアメリアに、伯爵は「顔をあげてください」と言う。

そして恐る恐る顔をあげたアメリアに微笑んだ。


「よくお似合いです」

「ありがとうございます」


伯爵が用意してくれたドレスは、不思議なほどアメリアにぴったりだったのだ。まるでアメリアのためだけに用意されたみたいだと錯覚してしまうほどだった。


「本当に助かりました。どうお礼を言えばいいやら…。後日必ずこのドレスをお返しに参ります」


しかし伯爵は「いえ、そのまま差し上げますよ」と言うのだ。


「し、しかし」

「こんなにもお似合いなのです、アメリア嬢に差し上げたいのです」


アメリアは戸惑ったが「ありがとうございます」としか言えなかった。

分からないことだらけだ。

どうして伯爵が女性のドレスを持っていたのか。どうしてそれをアメリアに譲渡しようとするのか。

伯爵は、ミルフォード家の現状を知っているはずなのだ。どんなにミルフォード子爵家が追い込まれているのか、貧乏な生活を送ってきたのか、関わる価値があるのか否か、きっと他の貴族より理解しているはず。

そのうえ、伯爵は自分の弟であるシアンとアメリアの婚約を破棄するように言い出した張本人。

今更アメリアに関わったり、まして恩を売ったりする必要はないはずなのに。


すると伯爵は「不思議そうな顔をしていますね」と笑った。
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