騎士団長のお気に召すまま
伯爵との結婚はアメリアの望む全てを叶えてくれる。いや、望む以上の幸せをくれるかもしれない。

幸せそうに微笑む両親とばあや、ロイドの顔が脳裏にうつる。


何をどう考えても、きっとこれが最善だ。

この機会を逃すわけにいかない。



「私は…」



望みます、と言葉が喉につかえて出てこない。

嬉しいのに、望むべきなのに、それを掴む言葉が出てこないのだ。


自分の結婚は、家のため。ミルフォード家の没落を回避するための唯一の手段が、自分より高貴な人との結婚。それを掴むために騎士団にまで入団した。

それなら、絶対に伯爵の想いに応えるべきなのに。


おかしい。どうかしている。アメリア自身もそう思う。


それでも、シアンの顔が、言葉が、次々に脳裏に浮かんでくるのだ。

一緒に過ごす中で分かったシアンは最悪な人物だ。

無表情か怒った表情しかしないし、理屈っぽいし、真面目を通り越して堅物だし、腹黒いし、毒舌だし、辛辣。

でもそれだけではないと知ってしまったのだ。

困ったときには助けてくれる、本当は優しい人だと。

知ってしまったら、離れられない。

忘れられない。

記憶にこびりついてしまって、消えない。

消えて、くれない。



「私は…」



ちょうどその時だった。



「アメリア!」



声が聞こえた。
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