騎士団長のお気に召すまま
「それに相手にも悪いことばかりではないさ。契約さえ守ってくれるのなら、何の不自由もさせない。生活の保障もする。他に恋人を作ろうがそれは自由だ」


「とんでもないことを考え出しますね」

「なに、お前ほどではないさ」


呆れたと溜息を吐くシアンに、伯爵はにこにこ笑顔を浮かべたままそう言ってのける。


「それは、私でなくとも良かったのではないのですか? 何のために私とシアン様との婚約を破棄させてまで、こんなことをしたのですか?」


伯爵が求めていたのは、契約結婚を結ぶ相手。ならば何もアメリアである必要はない。

わざわざ婚約者のいるアメリアを婚約破棄に追い込んでまで手に入れる必要はどこにもないのだ。


「結婚をしないせいで、使用人達が我慢の限界を迎えたらしくてな。この中で決めろ、と候補者名簿を作って持ってきたんだ」


その中にアメリアの名前があったのだという。


「有名な伯爵家令嬢の名前が連ねていたけど、彼女達は選べない。彼女達は金持ちの生活に飽き飽きしていて愛に生きたいと望むから、面倒なんだよ。

けれど子爵家令嬢であるなら、きっと現実が見えているはず。たとえ愛のない契約結婚を申し込んだとしても、交渉に応じてくれると思ったんだ」


さすがはシアンの兄だとアメリアは呆れを通り越して関心さえしていた。

乙女の心も、全部利用して自分の望む未来のために利用する。

シアンも腹黒いと思っていたが、伯爵の方がよほど黒い。

元は子爵家だったアクレイド家が伸し上り、伯爵家となり盤石な地位を得たその立役者たるアクレイド伯爵の、その敏腕さを裏付けるものだった。


「で、どうしてお前は俺の考えがそれほど分かっていながら邪魔をした?」


笑顔の表情は変わらないのに、視線だけ鋭くなる。

身が凍るような恐怖が全身に走った。
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