騎士団長のお気に召すまま
思わずアメリアが呼びとめると、伯爵は足をとめて首だけ振り返ってアメリアに微笑む。目を細めて瞳を隠し、優しさだけを前面に押し出した顔で。


「つまらない余興に付き合わせて、申し訳ありませんでした。

今宵はどうか楽しい時間を」


片手をあげて会場へと戻っていく後姿を見えなくなるまで見送った。

伯爵はこの場からいなくなったというのに、息をするのも憚るような緊張が辺りを包み込む。

しんと静まり返った中で、シアンは息を吐き出した。その音に、アメリアもようやく呼吸をする。


「シアン様…」

「まったく、貴女って人は」


突然アメリアは叱られてしまった。

キャンベル邸、しかも夜会の最中ということもあってか、いつもより声量は小さいものの、その怒り度合いはいつもと変わらない。

一体何を叱られるのだろうと身構えていると、シアンは長く溜め息を吐き出した。


「…どこに行ったのかと、思いました」


それはどこか安堵したようでもあった。


「え…?」

「会場に戻ったらどこにもいないし、庭園で見つけたと思えばドレスは変わっているし、兄上に口説かれているし…。心臓が出るところでした」


アメリアは目を見開いた。シアンは怒っていたわけではない、心配してくれていた。そのことに気付いたからだ。


「いなくなったら、どうしようかと思いましたよ」


切なさを纏った言葉は、本当にシアンのものだろうか。

アメリアの心臓は跳ねる。
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