臆病でごめんね
自分で言うのもなんだけど、お母さんは自分に似ている私の方が断然可愛いみたいであれこれ世話を焼いてくれちゃうから、妹の立場としては面白くないのかな…。

だけどその代わり夢乃は、アウトドア好きなお父さんと二人きりであちこち出掛けていたんだからお互い様じゃないか、と思う。

とにかくあの子は失恋による八つ当たりから、私に色々と攻撃を仕掛けて来たという訳だ。

何だか納得いかない。

別に私、伊藤君のことなんて何とも思っていなかったのに。
確かにお洒落な格好をして垢抜けてはいたけれど、ちょっと軽そうに見えたし。

それより何より私より四つも年下だもの。
全然恋愛対象じゃない。

私はやっぱり年上の男性が良いな。
優しくて男らしくて頼りがいがあって…。

そこで唐突に私の脳裏には副社長の顔が浮かんだ。

「あら。どうしたの?茅乃。いきなり顔を赤らめちゃって」

自分でも瞬時に顔が熱くなるのが分かったけれど、案の定お母さんに突っ込みを入れられた。

「な、何でもないよ」

慌ててそう誤魔化し、ずっと手にしたままだったお箸を目の前の鶏肉のソテーに伸ばす。

ただの憧れだと思っていたのに、私、いつの間にか本気で好きになっちゃったのかな、彼のこと。

だけど…。

いくらなんでも副社長とお付き合いなんかできるワケがないよね。
彼はきっとそう遠くない未来に、似たような家柄のお金持ちのお嬢さんと結婚するんだろうし。

中流よりは若干上程度の、こんな平凡な家庭の娘なんか相手にされる訳がないよね。

口の中に入れたお肉をゆっくりと咀嚼しながら、私はぼんやりとそんな風に考えたのだった。
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