臆病でごめんね
午後の業務に突入し、ワゴンを押しながらぼんやりとエレベーターホールまで歩を進めた私は、丁度到着していた上行きの箱に機械的に乗り込んだ。


「あ、あなた」


しかしすでに階数パネルの前に居た女性にすかさず声をかけられる。


「これは重役とその同伴者しか使用できないエレベーターですよ」

「え?あ」


その人は本丸さんで、しかも箱の奥には副社長が佇んでいた。


「す、すみません」


盛大に慌てふためきながらも私は解説する。

「でも…最上階に行くんですよね?私もちょうどそこで作業がありまして…」

「いえ、ですが」
「ああ、それだったら良いですよ」


更に良い募ろうとした本丸さんを制するように副社長が言葉を発した。


「それだけの運搬物があっては、他の箱に乗り直すのは面倒でしょう。本丸さん、このまま行って」

「…はい」


不本意そうではあったけれど彼女はその指示に従いパネルを操作した。

副社長に命じられたら、それ以上私に意見することなんかできないよね。

私は思わず優越感に浸りながら、こっそりと笑みを漏らした。

だけどホント、副社長は優しいな…。


「前々から思ってたんだけど、そもそもごく一部の人間しか乗っちゃいけないなんて、おかしな決まりだと思わないか?本丸さん」


「いえ。その方が効率的ですから」

副社長が発した問いかけに彼女はすかさず反論した。
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