臆病でごめんね
…相変わらず恐い人…。

っていうか、副社長がいなくなってから言うなんて、何だかちょっと意地悪じゃない？

…それとも相手が私だからとか？

副社長に、顔を合わせる度になんやかんやと話しかけられ、親切にしてもらっている私にやっぱりどうしても嫉妬心を抱いてしまうとか？

どれだけ才色兼備な人でも、男が絡むと途端にただの「女」になってしまうんだな、とつくづく呆れてしまう。

しかしあんな風に言われてしまったからには私も黙っていられない。

そのまま私はそこで待機した。

ほどなくして副社長がトイレから出て来る。


「あ、あれ？」


彼は心底驚いたように目を見開きながら問いかけて来た。


「どうかしましたか？」

「副社長にお話があります。私を気にかけて下さるのは大変ありがたいんですが…」


私はあえてキッと強い眼差しで彼を見上げながら物申した。


「あなたが私に構えば構うほど、社員さんに反感を買ってしまうんです。だからどうかこれからはそっとしておいて下さい」

「え。いや、えっと…」


珍しく、副社長は大いに戸惑い、しどろもどろに言葉を繋いだ。


「あなた方はいつも、一生懸命動いて下さっているから、機会があればお声かけしようと思っていたんですけど…」

「だけどそれを快く思わない人がいるんです」


主にあなたの秘書である本丸才加さんがね。


「……分かりました」
< 27 / 51 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop