伯爵令妹の恋は憂鬱


遡ること少し前、執務室に入ったフリードは、机の上に遺書を広げ、ディルクとともに再確認する。
何度読んでも文言が変わるわけはなく、祖母がそこまでミフェルと心を通わせていたという事実に、不思議な感覚があった。

ディルクが記録のために奥の机の椅子に座り、フリードは机によりかかるようにして立った。
そして続いて入ってくるミフェルを見据える。すっかり真相をばらしたことで、ミフェルは力が抜けた様子だ。「座っていい?」と促される前からソファに腰をおろす。フリードは苦笑して彼の向かいに腰掛けた。


「さて、まずは礼を言おうか。ミフェル、君のおかげでおばあさまの本心を知ることができた。それには感謝する」

「別にいいよ。僕はリタ様のために何かしたかっただけだもん」

「ここからは遺書の話に入ろう。内容は、君へこの別荘を譲渡したいというものだ。それに対して、君の意見を聞かせてもらおう」


ミフェルは困ったように頭をかく。


「うーん。僕は確かにリタ様のことを親友だと思ってるよ。……だけど、僕は人生のこの三年ほどしか彼女と係わっていない。ありがたい話だけど、僕がもらうのは変な話だし、正直もらっても居心地が悪い。ただ、フリード様がここをつぶすつもりなら、話は別。この別荘を残すためなら、僕はマルティナを娶って、ここの権利をもらうつもり」

「……マルティナを娶らせるかどうかは、俺が判断する。あの子はおとなしいし、下手な権力争いに巻き込ませたくない」

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