伯爵令妹の恋は憂鬱
フリードはマルティナの出生のことをおもんぱかって濁したが、あっさりとミフェルが確信をついてきた。
「愛人の孫だから?」
クレムラート家では禁句になっているマルティナの出生を口に出されて、フリードは一瞬目を剥いたが、直ぐに気を取りなおした。
「そうか。お前は知ってるんだったな」
「リタ様が教えてくれたからね」
「あの方は……」
この話が広まったら、いくら伯爵家の娘だと言ってもマルティナに縁談など来ない。フリードはいら立ちをあらわにしたが、ミフェルは「まあ聞いてよ伯爵」とあっさりとしたものだ。
「僕はマルティナの出生を気にしてないし、人に言いふらす気もない。マルティナのことも気に入ってる」
「お前があいつを気に入ってるのは、御しやすい相手だからだろう?」
「最初はそう思ったよ。でも、今は本当に興味もあるよ。あの子はおとなしいけど、ちゃんとリタ様の気持ちを汲むことのできる優しい子だし、何よりあの歌声は魅力的だった。もっとずっと聞いていたいって思う」
「……そうだな。家でもあんなに歌ったりはしないんだ。俺も驚いた」
「よく考えてみてよ、伯爵。あの子が誰かのもとに嫁ぐなら、僕以上の相手はいないんじゃないかな。あの出生である以上、由緒正しい家柄の長男に嫁ぐのは無理でしょ? その点、僕は一応子爵家の次男だし、家柄が劣るとはいえ、伯爵家の娘が嫁いでおかしいほどじゃない。結婚してからだって、僕自身が社交に興味がないから彼女にも強要する気はない。あの子があの従者に執心してるのもわかってるけど、あいつとじゃ身分的に無理でしょ。なれて愛人ってとこじゃん」