伯爵令妹の恋は憂鬱

「まあ、そういう意味ではお前は理想的な相手ではあるな」

「そうでしょ? マルティナが従者のことを忘れるくらい……そうだね、彼女が十八になるくらいまでなら待っていてもいいよ。引き離せば、最初は泣いてもいつか忘れるでしょ?」

「お前……」

「それに僕と伯爵も案外気が合いそうじゃない?」


それはフリード自身も感じていた。
ミフェルには明らかに敬意が足りないし、人を人とも思わないところがある。それでいて、懐に入れた人間に関しては愛情深い。最初に話した時から思っていたが、切り返しがはっきりしていて、話していて小気味いいのは事実だ。


「だが結婚するのは俺とお前じゃない。マルティナがお前を気に入るとは思えんがな。……そうだな、あの子が欲しいなら、今から二年かけて落としてみろ。マルティナが望むなら俺は反対しない」


フリードとしてはあくまでマルティナの意思を優先するつもりだ。
親の勝手に振り回され、性別までも偽らされた子供が、ようやく自分らしく歩み始めたのだ。再び他人の思惑で振り回したくはない。


「あー、伯爵、ほんとあの子に甘いね」


ミフェルは両手を頭の後ろで組み、大きなため息をつきつつ、「でもそういうとこ、嫌いじゃないや」とへらりと笑う。


「じゃあ僕への質問は終わり?」

「そうだな。次はマルティナ……いや、トマスを先に呼んでくれ」

「トマス? あの従者は遺産に関係ないでしょ? マルティナもそうだけどさ、なんで伯爵はあの従者をそんなに特別扱いするの?」

「あいつがマルティナにとって重要な人物だからだよ。……今後、関係あるかどうかはあいつ次第だしな」


フリードは腕を組んだまま、ミフェルを急き立てた。

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