伯爵令妹の恋は憂鬱
しかし、フリードはため息をつくと、「質問を変えよう」と言って、トマスの最大限の努力をなし崩しにするような問いかけをしてきた。
「……お前はマルティナに、性的な意味で欲情したことがあるか?」
「……は?」
さすがに、今回は模範解答が分からない。思わず、トマスは間の抜けた返事をしてしまった。
「え、いや。その。……ええ?」
「俺は別に叱責しようと思っているわけじゃない。本音で話せと言っただろう。お前、マルティナに手を出したことは?」
「手って……、そんなことはするはずないじゃないですか!」
もはや、トマスの冷静さはどこかに行ってしまった。顔を赤く染めながら、必死に反論すると、こらえきれなくなったのか、机で記録に徹していたはずのディルクが噴き出していた。
フリードも頬の筋肉を緩めつつ、ぶつぶつと小声でつぶやいた。
「そうだよな。お前はそういうやつなんだよな。だからこそギュンター殿もお前をエミーリアの従者にするのをためらわなかったんだろうしなぁ」
フリードはディルクと視線を交わし、至極まじめな顔になった。