伯爵令妹の恋は憂鬱
「真剣に話してるんだ。お前、マルティナを女として愛することはできるか?」
「……え? は?」
「返答次第では、お前にはマルティナの傍から離れてもらう」
トマスは血が下がった感覚がした。一瞬聞き間違いかとも思ったが、フリードは本気を問う目をしている。
ここで言い逃れやごまかしなどしたら、フリードからの信用は失われるだろう。
「私は……」
トマスの脳裏に、十三歳の初めて会ったマルティナが浮かぶ。
傷ついておびえた少年のような少女だった。この子が、のびのびと暮らせる日が来ることを、心の底から穏やかに笑うことができるようになることを、願い続けた三年だ。けなげな少女の、信頼と愛情のこもったまなざしを見るたびに、トマスは自分の中に沸き上がった恋情など殺して、彼女のために生きようと思ったのだ。
「私、は……」
のどの奥がひりつく。この返答が重大な決断につながるだろうことは容易に想像がつくからこそ、吐き出した声が震えるのが分かった。