伯爵令妹の恋は憂鬱

フリードは、マルティナをじっと見た後、優しく頭を撫でた。


「……分かった。そんな顔をするな。別にお前が嫌なら無理にこの話を通す気はない」


後ろに控えていたディルクがクスリと笑った。


「やっぱりマルティナ様には甘いですね」

「うるさいな」


照れたようにそっぽを向いた兄は、「ただな、」と念を押すように言った。


「トマスはお前付きの従者から外すことにした」

「え?」


マルティナは耳を疑った。瞬きをしても、兄の表情は変わらない。
言葉は言葉として頭には入ってきたが、内容を理解するまでには時間がかかった。遅ればせながら、頭を固いもので殴られたような衝撃が襲ってくる。


「……どうしてですか?」


マルティナの声は震えていた。フリードは冷静な調子を崩さずに続ける。


「単純にお前はもう年頃だ。男の従者が面倒を見ているのはおかしい。屋敷に戻ってからお前付きの侍女を指名するから待っていろ」

「嫌です! トマス以外の従者はいりません!」

「ダメだ。これに関しては言い分は聞かない。もう戻れ」


普段は優しい兄に珍しく冷たく返されて、マルティナはそれ以上食い下がれなかった。
失礼しますとも言わずにトボトボと執務室を出る。

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