伯爵令妹の恋は憂鬱

廊下を歩きながら、ぐるぐる回る頭の中を整理する。

結婚に関しては兄が止めてくれるだろう。その場合にこの別荘をどうするかは、ミフェルとフリードの間で話されることで、マルティナには直接関係がない。

問題は、トマスを従者から外すと言われたことだ。マルティナの望みは、トマスと一緒にいることで、それ以上も以下もない。


(どうすればいいの。どうしたらお兄様は考え直してくれるの)


それともトマスが嫌だと言ったのだろうか。いつまでも甘えてばかりの自分の傍にいるのは、嫌になってしまったのだろうか。


(……トマスに聞かなきゃ、何にもわからない)


マルティナは立ち止まって唇を噛み締める。
クレムラート家では当主のフリードの決断が絶対だ。トマスを取り戻したいなら、あの兄を説得しなければいけない。
マルティナが翻弄されまくったミフェルを、子供のようにあしらうことのできる兄の心を動かすことは、生半可な感情をぶつけるだけでは無理だ。


(そうよ。まずはトマスに聞いて。それでもし、トマスが私といたいと思ってくれるなら、私は……)


マルティナはドレスの裾を翻して、トマスを求めて廊下を走った。
メイドに聞くと、トマスは大きな荷物を持って外のほうへ歩いて行ったという。
外はもう暗い。今から出るのはよっぽどのことだ。胸騒ぎがして、マルティナは外に駆け出した。

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