伯爵令妹の恋は憂鬱


「エミーリア、あのな?」

「トマスはもとは私の従者よ。何の相談もなく屋敷からも追い出すなんて」

「人聞きの悪いことを言うな。追い出したわけじゃない」


他人には冷静なフリードも愛妻からの冷たい視線には弱い。顔を赤くして反論する。


「じゃあ何なのよ」

「トマスには別の仕事を与えてある。ちゃんとディルクを相談役につけているし、将来的にあいつのためになる」

「だったら何処に居るのか教えて。私、見てられないわ。あんなマルティナ」


エミーリアは基本的に気が強く、やると言ったら必ずやる。
ここでしらばっくれたところで、実家に掛け合ってトマスの両親から所在を突き止めかねない。
フリードは観念してため息をついた。


「……マルティナを縛りたくないってあいつが言ったんだ」


マルティナに対しては固く閉ざした理由を、フリードはエミーリアに打ち明ける。


「トマスが言ったの? どういうことよ」

「成功するかどうかもわからない自分を待たせることはできないし、彼女の気持ちが本当に恋かどうかもわからない。離れてみれば、今の気持ちが刷り込みだと気づくかもしれない。だから約束なんて残したくないとトマスが言ったんだよ。だから行き先も理由も教えないでほしいってな」

「待って、意味が分からないわ。そもそも仕事っていったい何? 従者よりいい仕事ってこと?」


エミーリアは頭を抱える。従者の給料はそう悪いものではない。ましてフリードは能力に応じて給金を設定している。どんな雑事もこなすトマスは、筆頭使用人である執事に負けないくらいの給金をもらっているはずだ。


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