伯爵令妹の恋は憂鬱
「本当よ。でも泣いていちゃだめ。……マルティナ。待っていればトマスは戻ってきてくれると思うわ。でもそれでいい? あなた、その間待てるの?」
「お姉さま?」
「私もフリードも、あなたの結婚に対しては、あなたの意志を尊重するつもりなの。アルベルト様やお義母様に人生を決められたあなたを、私たちは自由にさせてあげたくて連れてきたんだもの」
周りの人間を巻き込みながらも自分の意思を貫いていく義姉は、いつもマルティナの憧れだった。
その彼女が、マルティナに覚悟を問うてくる。
「わ、私……」
「エミーリア様、どういうおつもりですか。マルティナをあおるのは辞めてくださいよ。そもそも伯爵家の令嬢と使用人が釣り合うわけがないんだ。マルティナ、きっとトマスは身を引いたんだよ」
別の手でマルティナをなだめにかかるミフェルを、エミーリアはキッと睨みつけた。
「ミフェル様は黙っていて。私はマルティナに聞いているの。あなたが決めるのよ。このまま、トマスが迎えに来るまで、引きこもって泣いているつもりなのか、そうじゃないのか。それとも他の求婚者を受け入れる? どれを選んだって私もフリードも怒らないわ。ただ、あなたの意志が知りたいだけよ」
「わ、私。……私は」
一つの思い付きが降ってきて、マルティナは目を見張る。
それは覚悟のいることだったが、心は自由になれる。そのひらめきを抱きしめた。
そうだ。このまま泣いていたって、少しも魅力的になどなれはしない。
トマスは言ったのだ。笑っていてくださいと。笑っていたら嬉しいと、言ってくれたのだ。
「私っ、お兄様のところに行ってきます」
マルティナの瞳に、生気が戻る。エミーリアはそれを見ただけで満足だった。ちょうどそのタイミングで赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
「あらやだ、エルナが起きちゃった。じゃあね、ミフェル様」
何食わぬ顔で、エミーリアは自室の方向へと歩いていく。
ミフェルはあっけにとられたまま、その姿を見送った。