伯爵令妹の恋は憂鬱
「マルティナ様。こんなところでどうしたんですか。とにかく、寒いから中に入らないと」
「いいえ。私、ここに入る資格がないんです」
令嬢は首を振ると、以前贈った髪飾りも一緒に揺れる。
「何を言ってるんですか。伯爵家のご令嬢をこんな寒い中に立たせておいたりしたらディルク様に怒られますよ」
「だから私、もう伯爵家の令嬢ではないんです」
トマスは、マルティナの言っていることがわからず、目を瞬かせた。よほど間の抜けた顔をしていたのか、マルティナが小さく噴き出した。
「は? え?」
「お兄様に、勘当してもらいました。もう私、マルティナ=クレムラートではないんです。ただのマルティナなんです」
勘当なとどいう物騒なことを言いつつ、マルティナの表情は生き生きとしている。
「勘当って……フリード様がそんなこというわけないでしょう? 一体……」
「本当ですってば。私、もう行くところもありません。だから、当たって砕けるつもりで、大好きな人に結婚を申し込みに来たんです」
震える声で、目が点になるようなことを言われて、トマスは言葉が紡げなかった。
「……私にはもう何の身分もありません。持ってるのは気持ちだけ。私、トマスが好きです。傍にいて、あなたが選んだ道を歩むお手伝いがしたいんです。一生懸命働きます。だから、傍に置いてもらえませんか?」
何が何だかわからない。
彼女に見合う身分になるために頑張っているのではなかったのか。その彼女に身分を捨ててきたと言われては、意地を張っていた自分がバカのように思えてくる。