伯爵令妹の恋は憂鬱
二度目の呼びかけの時には、迷いなど吹っ飛んでいた。
トマスは、マルティナを力の限りで抱きしめる。細い彼女の体はすっかり冷えていた。マント越しでもわかる、背中から腰にかけてはなだらかなライン、柔らかな頬がトマスの胸にこすりつけられる。
「会いたかったです。トマス」
「言ってはいけないことだと思っていました。あなたは仕えるべき主人で、歳も十も下で」
マルティナは彼を見上げた。これまでに見たことのない、余裕のない顔で必死に言葉を紡いでいる。
「そんなあなたを愛してしまったなんて。せめて釣り合う立場を手に入れて、あなたが大人になるのを待ってからじゃないと」
「私、まだ子供ですか?」
トマスは少し手の力を緩め、マルティナの顔をじっと見る。外見がそれほど変わったわけでもないのに、彼女の瞳や唇からは色香が漂っているように思える。それは自分が恋情を自覚したからなのか、彼女自身が変わったからなのか。
「いいえ。見ているだけで胸が揺さぶられます。自制するのが難しいくらいに」
「だとしたら、そうさせたのはトマスです。だって」
マルティナはトマスの腕を掴んで、力いっぱい引き寄せた。マルティナの力では動かないが、トマスは彼女の意図を察して体をかがめる。
近づいてきたトマスに、マルティナは一瞬ひるみ、だけど思い切ってつま先立ちして顔を近づける。
小さな令嬢の必死のキスは、唇の柔らかい弾力を確かめただけで離れていく。トマスは彼女の腰に手をまわし、力いっぱい抱き上げた。
そして、彼女から呼吸をする行為を奪ってしまいそうな激しいキスをする。
「んっ、……はじめてキスをしたときから、欲が出たんです。……もっとしたい。私、子供じゃなくて女になりたいって、思ってしまったんです」
キスの合間に、マルティナが囁く。
トマスの頭にますます熱が上り、彼女をしっかり抱きしめる。
馬の背で冷えていたはずのトマスの体は、いつの間にか熱を取り戻していた。
小さな令嬢の、大きなる勇気によって。