伯爵令妹の恋は憂鬱



やまないキスを続けるふたりに声をかけたのは、呆れたように腰に片手を当てたディルクだ。


「邪魔をするのは申し訳ないと思いますがね、外はもうかなり寒い。……そんなところにずっといて、風邪をひかれても困ります。どうぞお入りください、マルティナ様」

「あ、ディルク様」


ふたりは慌てて体を離す。ディルクが目のやり場に困るように斜め上を見て、マルティナは一気に顔を赤くした。


「あ、あのね。ディルク。私……」

「存じてます。マルティナ様がクレムラート家を出る前に、フリード様はここに伝令を寄越しました。勘当してくださいと詰め寄ったそうですね」


思わず耐え切れなくなったように噴出した後、「明日、フリード様がどんな顔をしているのか見に行くのが楽しみです」とディルクは彼にしては無防備な笑顔を見せた。


「だって」

「ディルク様、俺からもお願いします。しばらくの間、マルティナ様を一緒においてくださいませんか」

「もとより、フリード様からもそう命じられている。とにかく入って体を温めましょう。話はそれからです」


ディルクは手紙をひらひらと見せると二人を中へといざなった。
ためらいつつ見上げてくるマルティナを、トマスが笑顔を見せて手を引く。


「トマス」

「大丈夫です。……もう離しませんよ」


右手にマルティナの荷物、左手にマルティナの右手。ぬいぐるみはマルティナの左腕の中。
目の前の屋敷に向かうこの一歩が、ふたりで歩む最初の一歩だ。

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