伯爵令妹の恋は憂鬱
「……まあ、うちはかまいませんよ。事業が軌道に乗るまでは、トマスを預かるつもりだったんです。もう一人増えたところで変わりはしません。数年もたてば、トマスも空き屋敷を買い取って改築するくらいの財はためているでしょう」
「ありがとうございます。では、トマス。手を出してください」
「手?」
マルティナはトマスの左手をじっと見つめて、ぬいぐるみの首から革紐を外し、彼の左の薬指に、その革ひもを結びつける。
「本当はベルト飾りを作ろうと思っていたんですけど、間に合わなくて。私の持ち物って、もうこれしかないので安物で申し訳ないですけど。指輪の代わりです。……トマス、私と結婚してください」
トマスは目が点になっている。
「おや、女性からプロポーズとは案外マルティナ様は革新的ですね」
ディルクが冷やかし、トマスがますます真っ赤になった。
「……ちょ、待ってください。それは俺から。……ていうか、本当にいいんですか。あなたは他の男を知らないから、俺がよく見えるかもしれないけど」
「あら、私の周りには素敵な男性がいっぱいいましたよ。お兄様だってディルク様だって、地位があり魅力あふれる素敵な男性です。……でも、私が男性として好きになったのはあなただけです」
「だっ……、な……」
「どうやら俺はお邪魔だな。トマス、しばらくこの部屋には誰も近づかないように言っておくから、ちゃんとマルティナ様と話をするように」