伯爵令妹の恋は憂鬱
口ごもるトマスの肩をポンとたたいて、ディルクが出ていく。トマスは顔から火が出そうだった。
今まであんなにおどおどしていた令嬢は、こんなに堂々と自分の気持ちを伝えてきたというのに。
ふたりきりになったところで、トマスはマルティナのほほを両手で包んだ。
「まいったな。……あなたにこんな度胸があるとは思いませんでした。数年待っててくれれば、格好つけて迎えに行けたのに」
「そんな格好のつけ方いらないです。……キスをしたくせに逃げるとか、ひどすぎます。私、すごく悲しかったんですから。泣いて泣いて、死んでしまうかと思いました」
「……すいません」
思わず謝ってしまって、トマスは思わず笑いだす。
「ははっ。なんか変わりましたね、マルティナ様」
「トマス、呼び方が戻ってます。そうじゃなくて、もっと、恋人っぽく呼んでください」
「そういわれても慣れないなぁ」
ふくれて見せるマルティナは、まだ少し目を腫らしていた。
すっかり元気にふるまっているが、きっとこの決断をするまでには相当の葛藤があったに違いない。
そう思えば、愛おしさは枯れることのない泉の水のようにいくらでも沸き上がってくる。