伯爵令妹の恋は憂鬱


翌日、ドーレ男爵家の馬車に乗り、トマスとマルティナとディルクはクレムラート伯爵家に向かった。

マルティナは若干ふくれ面だ。
せっかく格好つけて伯爵家を出てきたというのに、こんなにすぐに顔を見に行く羽目になるとは思わなかった。

だが、「ちゃんとご挨拶しないと、フリード様に申し訳が立ちません」とトマスに言われては応じないわけにもいかない。

「二人は少し後から来てください。落ち込んでいるフリード様も見ものですからね」と笑うのはディルクで、忠実な側近の意外な茶目っ気を初めて見たマルティナは驚いた。


屋敷につくと馬車を降りる前から玄関口にフリードがやってきて、先に降りたディルクに「おいディルク、どうだマルティナの様子は」と詰め寄ってくる。

「思ったより清々しい様子でしたよ」

「は? トマスは何て返事をしたんだ。あいつが冷たく突き放すとは思わないが、時期が早すぎる。マルティナを突き放したりしていないだろうな、おいディルク!」


ディルクはついに噴き出して、背後の馬車を指さした。


「ご自分で確認なさるといいですよ。一緒に来ています」

「は?」


ディルクの首根っこから手を離したフリードは、トマスの手を借りて馬車を降りてくるマルティナを見つけた。


「マルティナ」

「おにいさ……じゃない、伯爵様、あの、えっと」

「お兄様のままでいい。お前は俺の妹だ」


マルティナは笑顔を見せた後、隣のトマスを見つめる。トマスは、フリードに大きく頭を下げた。
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