伯爵令妹の恋は憂鬱
「働いて怒られてるなんて変な話だ」
ぼやくように言うマルセルに、トマスは笑いかけた。
「ディルク様はきっちりしているからな。俺だとついつい働かせすぎてしまうから、君たちのためにはちょうどいい」
トマスとマルセルは、話しながら馬の準備をしながら話をした。あまり経営者然としていないトマスは、従業員との距離が近い。特にマルセルとは年齢が近いこともあって、社員と経営者というよりは親しい同僚といった感覚で話をする。
家庭の愚痴なんかもよく聞かされていた。
「さあ、帰ったら子供の相手だ」
「大変だな、マルセルも」
「チビたちは、どうしてもママがいいって言うからな。でも俺がいる間くらいはブリギッテを休ませてやらないと、あいつが倒れちまう」
困った顔をしつつも頬が緩んでいる。マルセルがいい旦那であることは、それだけでも伝わってくる。
「トマスのところもじきにそういう話になるんじゃないか? 子供ができたら気を付けてやりなよ。本当、大変だから」
「わかってる」
ふたりはそこで別れ、トマスはマルティナの待つ屋敷へと急ぐ。
トマスの家はそう大きくはないので、使用人は住み込みの料理人とメイドの夫妻、通いの小間使いの三人だけだ。
それ以外の雑事は休日にトマスがする。庭仕事も馬の世話も掃除も彼にはお手のものだ。