伯爵令妹の恋は憂鬱
(マルティナ。……今日は何をしているのかな)
軽いため息をつきながら、トマスは馬を駆る。
マルティナは、家にいるのに何もしないという状況が落ち着かないらしく、家の中の仕事を覚えようと毎日張り切っている。
しかしながら彼女は貴族の生まれで、当然のように人に世話を焼かれてきたのだから、仕事ができるわけがない。
ディルクの屋敷にいたときも、使用人が揃っていたのでそれほどすることはなかった。
べつに何もしなくていい、とトマスは言ったのだが、マルティナは余計ムキになってしまった。
屋敷の掃除をしようとしてバケツごと水を零したり、パイを焼こうとしてオーブンから煙をあげたりと、武勇伝はメイドのマーヤからいろいろと聞かされた。
『でも一生懸命でねぇ。おやめくださいとも言えないんですよ』
それはトマスにも容易に想像がつく。マルティナはいつだって健気に思えるほど一生懸命なのだ。
元来、不器用ではないが要領はよくない。
それでも、どれだけ時間がかかっても一生懸命頑張っているから、無下にはできないのだ。
そんな姿はいじらしくもかわいらしいし、遅々としてとはいえ昨日より上達していないわけではないから、止めるのも気が引ける。
(頑張ってくれるのは嬉しいけど。……疲れ切ってるからなぁ)
問題はそこだ。
一日中、慣れない仕事に一生懸命なマルティナは、一日の終わりにはすっかり疲れ切っているのだ。