伯爵令妹の恋は憂鬱


「……っ、と。君は食べたの? まだなら一緒に食べよう」

「はい! すぐ着替えてきますね」


背中を向けたマルティナの向こうで、マーヤが恐縮しきったように、トマスに向けて頭を下げている。
トマスが手ぶりで怒っていない旨を伝えると、ホッとしたようにマルティナを追いかけていった。

本当は何もしなくていいから自分の帰りだけを待っていてほしい。
お仕着せを着られるのも何となく嫌だ。
自分のふがいなさを見せつけられているような気になってしまう。

ジワリと沸き上がるいら立ちと折り合いをつける前に、マルティナが戻ってくる。

しかめた顔を見たマルティナはさっと表情を曇らせたが、それに気づいたトマスが笑顔に戻ると、ホッとしたように笑う。


(……くそう、かわいい)


彼女の無邪気な笑顔にこんなにも弱かったのか、と情けなくなるが、結局のところ惚れたほうが弱いのである。
トマスは十歳下の幼妻に完全に参っていた。


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