伯爵令妹の恋は憂鬱


マルティナの焼いたパイは、ずいぶんと上達していた。
以前食べたときはべたべたとした舌ざわりだったが、今日のはサクサクとしておいしい。
中に味付けされた肉が挟み込まれたポークパイは、夕食の一品として最高だった。


「うまい」

「本当ですか? うれしい」


夕食にはワインも供されていた。飲みすぎによる暴走を防ぐため、数杯飲んだあとは水に切り替える。


「トマス、最近忙しいんですね」

「ああ。いつもひとりにしてごめん」

「ううん。お仕事だから仕方ないです」


マルティナも一杯だけ、とワインを飲んでいる。年齢的にも酒にはあまり慣れておらず、直ぐに頬を染め、目をとろんとさせている。


(この調子だとすぐ寝てしまうかな)


そうでなければ困る。
ただでさえ溜まっているところに一緒のベッドに入ったら、襲わずにいる自信はなかった。

マルティナには早々に寝てもらって、自分は煩悩退治に夜の散歩といそしもう。
トマスは脳内でそう決意し、久方ぶりの和やかな食事を終えた。

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