伯爵令妹の恋は憂鬱


(だけど……)


ふと、最近、トマスとそういった行為がないことを思い出した。
仕事が忙しく帰りが深夜に及ぶこともあるので仕方ないのだが、数えてみればかれこれ二週間。
新婚としては、長い空白期間ではないかと改めて気づき、残念がる自分が恥ずかしくなる。


「どうしました? 奥様。真っ赤になって」

「えっ? や、何でもないの。手伝ってくれてありがとうマーヤ。明日もいろいろ教えてね?」


考えが顔に出てしまっているんじゃないかという気がして、マルティナは慌てて寝室へと向かった。
中には、トマスがいた。シャツにベストという格好のままで、持ち帰ってきた書類を眺めている。


「……お仕事ですか?」

「ああ。……マルティナ。さっぱりした? 湯冷めしないうちにベッドに入るといいよ」


書類から軽く目を上げただけで、あまりマルティナのほうを見ないままトマスが言う。


(あれ? そっけない。……もしかしてマーヤの言うとおり怒ってる?)


マルティナは急に不安になる。
トマスは従者であったがゆえに、いつでもにこやかではあるものの、実はポーカーフェイスなのだ。
もしマルティナに対して不満があっても、顔に表すことはほとんどない。


(怒ってるから……私に触らないの?)


だって久しぶりに早く帰ってきてくれたというのに。
ベッドに入ってしまったら、マルティナは眠りの海に引きずられてしまう。その前に夫婦の時間が欲しい。
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