伯爵令妹の恋は憂鬱
「トマス、あの」
ととと、と近寄ってくるマルティナに、トマスは笑顔を張り付けたまま頬にキスをした。
「おやすみ」
「あの、……怒ってる?」
「は?」
トマスがきょとんとしたので、マルティナは真顔で詰め寄る。
「私が、料理をするの、嫌ですか?」
「……嫌じゃないよ。パイもおいしかった。以前よりずっと上手になっているし」
「本当?」
「ああ。マルティナは時間がかかるけど丁寧だから。……頑張っているの、知っているよ」
マルティナは心底ほっとした。
トマスはちゃんと見ていてくれる。
しかしそれもつかの間、彼は彼女をなだめるように頭を撫でると、立ち上がった。
「俺も風呂に入ってくるから、先に寝ていて」
「待ってます」
「いいよ。疲れているだろ?」
疲れていることと夫婦の触れ合いを求めることは関係ないとマルティナは思うのだが、トマスはそのまま離れていってしまった。
仕方なくベッドに入る。体が温まるとどうしても眠りに引きずり込まれる。
まだトマスが戻ってこないのに……と思いながらも、マルティナは睡魔にあらがえなかった。